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公共貨幣フォーラムは、貨幣の本質について根本的な問いかけを行っている。公共貨幣フォーラムのウェブサイトによれば:
皆さんはお金という時、硬貨や紙幣をイメージされると思います。商品を購入する時に、商品の価値を何に載せるのか、金属のコインにして載せるのか、紙にして載せるのか、あるいはデジタル数字として銀行内に置くのか、といった価値情報の形でお金を理解していると思います。
この視点は、貨幣を単なる交換手段ではなく、「価値情報を載せるメディア」として捉え直すものである。同フォーラムは続けて次のように説明している:
情報を載せるメディアとしてお金を考えると、いま新しい事が起こってきています。皆さんもご存知のビットコインに代表される、ブロックチェーンという新技術を用いて価値情報を載せる方法です。日本では仮想通貨・暗号通貨と呼ばれています。今後、重要になってくるお金です。
この認識は、貨幣の形態(金属、紙幣、電子データ、ブロックチェーン)よりも、価値情報をどのような制度的枠組みで管理・流通させるかが本質的な問題であることを示している。
公共貨幣フォーラムは、貨幣を理解する上で最も重要な分類として、公共貨幣と債務貨幣の区別を提示している。同フォーラムのウェブサイトでは、この分類について次のように説明している:
私たちが本日議論したいのはこの表で言いますと、縦の分類です。一つは公共貨幣という概念でお金を考えるということです。そしてそれに対峙して債務貨幣という概念でお金を捉えるという考え方です。公共貨幣は歴史とともに始まった概念ですが、債務貨幣はここ2〜300年のうちに突如として現れてきたお金です。
この分類の重要性について、同フォーラムは警鐘を鳴らしている:
私たちが経済学で学ぶのは、この債務貨幣についてのお金のみです。今の経済学では、この公共貨幣について一切学べないようになっています。お金をどう考えるのか、これは非常に大事な点なのですが、これが現実です。
公共貨幣と債務貨幣の根本的な違いについて、同フォーラムは明確に説明している:
公共貨幣とはどういう貨幣なのか、公的機関が発行するのが公共貨幣です。その特徴は、公共貨幣を発行しても利息が付かないことで、これは大事な点です。それから、公共貨幣は発行するごとに発行機関に発行益があるということです。発行益とは英語でシニョリッジ(seigniorage)と言います。発行する公的機関に一回限りの発行益が付くということです。
具体例として、500円硬貨の発行について説明されている:
簡単な例で説明します。500円玉は政府が発行するお金ですが、1枚あたりの製造費は43円です。この差額の457円が政府に自動的に入ってくる発行益です。この発行益について、インターネットなどで混乱した情報が出回っています。皆さんは、この発行益は、公共貨幣にのみ帰属する概念だと理解してください。
公共貨幣フォーラムは、貨幣と支配の関係について興味深い視点を提供している。同フォーラムによれば:
お金は支配の手段ともなれるのです。お金は公共貨幣と債務貨幣からなっている、これが私たちが理解すべき点です。この公共貨幣から1%が支配する債務貨幣へと国盗りが行われてきた、これが歴史の大きな流れです。こういう観点で見ると、今までとは違った歴史が見えてきます。
この「国盗り」という概念は、公共貨幣から債務貨幣への歴史的転換を説明する重要な視点である。同フォーラムは、日本の諺を引用してこの関係を説明している:
ことわざに「金で面を張る」というのがありますが、お金があれば支配できるということですね。もう一つ似たようなことわざに、「金が言わせる旦那様」というのがあります。お金を持っている人は旦那様と大事にされるという意味です。英語で旦那、gentlemanというと品格ある立派な人というイメージですが、ジェントルマンとは日本語では「銭とる人」、すなわち人から金をむしりとる人が旦那様と呼ばれている、とも解釈できますね(これはジョークですが)。
公共貨幣フォーラムは、日本の歴史における公共貨幣の事例として、古代から近世にかけての貨幣発行を取り上げている。これらの歴史的事例は、公共貨幣制度の実現可能性と有効性を示す重要な証拠として位置づけられている。
同フォーラムの分析では、歴史上の「国生み」は公共貨幣の発行と密接に関連している。公的機関が利子を伴わない貨幣を発行することで、社会基盤の整備と経済発展が可能になったという視点である。
この歴史的視点から、現代における「新国生み」の可能性が論じられている。公共貨幣の復活により、持続可能で公正な経済システムの構築が可能になるという構想である。
公共貨幣フォーラムは、現代の債務貨幣システムを「国盗り」のメカニズムとして分析している。民間銀行による信用創造が、実質的に貨幣発行権の私有化を意味し、これが社会全体に構造的な利子負担を課していると指摘している。
このシステムの下では、銀行が無から貨幣を創造し、それに利子を付けて貸し出すことで、継続的な富の移転が発生する。借り手は元本だけでなく利子も返済しなければならないため、社会全体として常に元本を上回る額の貨幣が必要になる。この構造的な不足が、継続的な経済成長への圧力と、それに伴う環境破壊や社会格差の拡大をもたらしている。
公共貨幣フォーラムは、現行の債務貨幣システムに内在する根本的な設計上の欠陥を指摘している。これらの欠陥は、単なる運用上の問題ではなく、システムの根幹に関わる構造的問題として理解されている。
第一の欠陥は、利子の複利効果による指数関数的成長の要求である。債務として創造された貨幣には利子が付随し、その利子にもさらに利子が付く複利効果により、債務は指数関数的に増大する。これに対応するためには、経済全体が同様の速度で成長し続けなければならないが、有限な地球上では物理的に不可能である。
第二の欠陥は、貨幣供給の民間依存である。経済で流通する貨幣の大部分が民間銀行の融資判断に依存しているため、銀行の経営方針や市場心理によって貨幣供給量が大きく変動する。これが景気循環の不安定化と金融危機の頻発をもたらしている。
第三の欠陥は、富の集中メカニズムである。利子による富の移転は、債務者から債権者への一方向的な流れを作り出し、時間の経過とともに富の集中が加速する。これが社会格差の拡大と民主主義の基盤の侵食をもたらしている。
公共貨幣フォーラムは、債務貨幣システムから公共貨幣システムへの移行を「新国生み」として構想している。この移行は、単なる技術的な制度変更ではなく、社会の価値観と経済システムの根本的な転換を意味している。
新国生みの基本原理は、貨幣発行権を民主的統制の下に置き、発行された貨幣を利子なしで社会に供給することである。これにより、社会全体の利子負担が軽減され、より公正で持続可能な経済システムが実現される。
具体的な制度設計としては、以下の要素が提案されている:
貨幣発行の一元化:すべての貨幣発行を公的機関に集約し、民間銀行の信用創造機能を段階的に制限する。
政府支出による貨幣供給:新規発行された公共貨幣を、政府の公共投資を通じて経済に供給する。
民主的貨幣政策:貨幣供給量の決定プロセスに民主的統制を導入し、社会的合意に基づいた貨幣政策を実施する。
公共貨幣フォーラムは、債務貨幣システムから公共貨幣システムへの移行について、段階的なアプローチを提案している。急激な制度変更は経済混乱を引き起こす可能性があるため、慎重かつ計画的な移行プロセスが必要である。
第一段階では、公共部門での公共貨幣導入から開始する。政府が公共投資の財源として公共貨幣を発行し、国債への依存を段階的に減らしていく。これにより、政府の利子負担が軽減され、より積極的な財政政策が可能になる。
第二段階では、中小企業・個人向け融資への拡大を図る。公的金融機関を通じて、利子を伴わない融資制度を拡充し、民間銀行の信用創造への依存を減らしていく。
第三段階では、全面的な制度転換を実現する。民間銀行の信用創造機能を完全に制限し、すべての貨幣発行を公的機関に一元化する。この段階では、銀行業務の決済機能と投資機能を明確に分離し、預金者保護を強化する。
公共貨幣フォーラムは、理論的な議論だけでなく、実践的な取り組みとして電子公共貨幣(EPM)の実証実験を推進している。この実験は、ブロックチェーン技術を活用したデジタル公共貨幣の可能性を検証するものである。
EPMの特徴は、従来の中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは異なり、完全に公共性を重視した設計にある。発行から流通まで、すべてのプロセスが透明化され、民主的統制の下で運営される。
実証実験では、限定的な地域や特定の用途でのEPMの運用を通じて、技術的な課題や社会的受容性を検証している。これらの経験は、将来的な本格導入に向けた重要な知見を提供している。
公共貨幣フォーラムの活動は、日本国内にとどまらず、国際的な主権貨幣運動との連携を深めている。世界各国で、現行の債務貨幣システムに対する批判と代替案の模索が進んでおり、公共貨幣の概念は国際的な注目を集めている。
イギリスの「Positive Money」、スイスの「Vollgeld-Initiative」、ドイツの「Monetative」など、各国で類似の運動が展開されている。これらの運動は、それぞれの国の制度的特徴を踏まえながら、共通の目標である貨幣制度の民主化を目指している。
国際的な政策協調の必要性も認識されており、単一国での制度変更が国際金融市場に与える影響を最小限に抑えるための方策が検討されている。
公共貨幣理論に対しては、主流派経済学の立場から様々な批判が提起されている。これらの批判は、主に効率性、インフレーション、移行プロセスの複雑性に関するものである。
効率性に関する批判では、民間銀行の信用創造機能が資源配分の効率性を高めているという主張がある。これに対して公共貨幣フォーラムは、現行システムの「効率性」が金融部門の利益最大化に偏重しており、社会全体の福祉最大化という観点では必ずしも効率的ではないと反駁している。
インフレーション懸念については、公共貨幣の発行が過度なインフレーションを引き起こす可能性が指摘されている。この問題に対しては、適切な発行量の管理と、税制による需要調整メカニズムの活用が提案されている。
移行プロセスの複雑性は、現実的な制度変更の困難さを指摘するものである。この課題に対しては、段階的移行計画の詳細化と、各段階での影響評価の実施が重要とされている。
公共貨幣フォーラムの議論は、現代経済システムが直面する根本的課題に対する包括的な解決策を提示している。債務貨幣システムが生み出す構造的問題は、部分的な政策調整では解決困難であり、貨幣制度そのものの抜本的改革が必要である。
公共貨幣制度の提案は、単なる技術的な制度変更ではなく、社会の価値観と経済システムの関係を根本的に見直す試みである。利子なき経済への展望は、効率性と競争を至上価値とする現代資本主義に対する代替的なビジョンを提示している。
21世紀の人類が直面する気候変動、格差拡大、技術革新といった課題に対処するためには、20世紀の制度的枠組みを超えた新しいアプローチが必要である。公共貨幣理論は、その一つの可能性を示すものとして、今後の発展と実践が期待される重要な思想的潮流である。
公共貨幣フォーラムの最も重要な貢献は、貨幣制度を「所与の制度」ではなく「設計可能な制度」として捉え直したことにある。貨幣は人間が作り出した社会的制度であり、社会の目的と価値観に応じて設計し直すことができる。この認識は、持続可能で公正な社会の実現に向けた重要な第一歩である。
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